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DATE: 2009/11/29(日)   CATEGORY: 店主の宝物庫
ブラッドストーン・イアー。
―某大学ノ一室ニテ、夏ノ陣発生スル。

大学に澪葉と楠本が戻ると、部屋の中には既に配線などの作業が終った一昔前のパソコンが置いてあった。これが先ほど電話で言っていたパソコンらしい。

「おっ、お帰り」
「ただいま戻りました、でこれが辞書です」
どかっと机の上に借りてきた奴を置くと、流梨と梔は驚いた。

「多いな・・」
「というか分厚いですね」
「まあ、普通ですよ。多分。ノートはどうでした?」
「あれから探し回ったんだけど無かったから、要らないプリントを大量に貰ってきたから、そこら辺は大丈夫だけどさ、何から始めるよ?」
「とりあえず、あれの解読ですね」

そう言って澪葉はコピーアウトした母国語が全く入っていないプリントたちを見た。

その一方で楠本は、教授室の前を見ていた。あまりにも静か過ぎやしなかと。中の気配を探るようにしていると、名前を呼ばれ輪に加わる。

「私はとりあえずこっちを解読します、3人はとりあえずですがワールド・クロスにアクセスして見て下さい」
「アクセス・・って、会員制だよな?」
「はい、けどパスワードとID教えてもらっているので問題ありません。」
梔がそう答えると、楠本が尋ねる。

「でも、そこにアクセスした時点でこのパソコン危ないんじゃないの?」
「それがパソコンがお陀仏になった原因は、澪葉先輩が今解いてるようなメールが大量に送られてきた事による、一種のフリーズみたいなんです。けど、全員が全員にそういうメールが送られてきた訳じゃないみたいなんです。」
「と、いうと?」
「実は、そのメールが送られてくる前日に不備の兆候があってたそうなんです。」
「兆候?」

「メインゲート、っていうこう十字の道路の中心部分みたいな、アクセスすると真っ先に行く場所があるそうなんですけど、其処に変なアイコンがあったそうなんです。」
「変なアイコン?」
「はい、それでそれに興味を持った人たちはクリックしたそうなんですけど、爆発して消えたときに一枚の手紙があったそうなんです。」
「手紙?なんて?」
「『解けるもんなら解いてみな!』って。最初は意味がわからなくてただのいたずらだろうととられたらしいんですがその翌日にコレですから、おそらくそれが何らかのスイッチになってたと思うんです。」

「解けるもんなら、解いてみなって・・おいおい、これ何処の言語学の専門レベルだよ・・」
余程の気力さえなければやる気も何もそがれる。

「んー・・?」
「どうした、楠本?」
「解けるもんなら、解いてみな、って事は解いたら何か起こるんですかね?」
「・・何か、って何が?」
「不備の全回復、とかですか?」
「それは多分無理じゃないかなあ・・、それだったら多分管理元が直ぐにやってそうだし」
「じゃあ、何が?」
「・・分かんない」
ジーニアス同志の会話と言うのは、多分余計な所がそげられていてシンプルだと前々から流梨は思っていた。

「とりあえず、アクセスだな・・」
カタカタ、とパソコンを動かしIDやパスワードを入力すると先ほど梔が話していたメインゲートとやらに来た。すると、メインゲートにはおそらく梔の級友のものと思われるアイコンと、その他に4体位しか居なかった。

「すっくないですね」
「まあ・・、不備の最中だしなあ」
「というより、何でこの人たちは此処にいるんでしょう?」
梔が出した疑問ももっともだった。今は不備の真っ最中なのだ。

「流梨先輩、カーソルこの人たちに合わせてもらっていいですか?」
「?ああ」
カーソルを合わせると『w.c.』と出た。

「・・・トイレ?」
疑問形で言うと、楠本が答える。
「管理元のアイコンみたいですね、これ。」
「w.c.=wolrd crossの略、って事ですか」
「ああ、成る程。それなら納得だ・・ああ?!」
流梨が突如叫んだ事により両隣に居る後輩はびくっとした。

「どうしました、流梨?」
澪葉が顔をあげずに尋ねてくる。本当に、器用な奴だこと。

「いや、ビックリ箱みたいなのがあるんだけど・・なんで、これ・・制限時間とか付いてんだ?」
「あ、本当だ」
「・・残り20時間と30分ちょいですね」
冷や汗が流れる一方で、楠本も確認し、梔が時間を告げる。

「・・、最悪ですね。」
澪葉がポツリと顔をあげて呟いた。

Re:The words that whom whom there is not now it is to sound like this ear.
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DATE: 2009/11/28(土)   CATEGORY: 店主の宝物庫
ルビー・タンジュ。
―嗚呼、厄介。

「えっ?榎本君、お休みに入ってるんですか?」
後輩が驚きの声をあげる一方で自分はといえば、周囲を見る。大学近くに少しばかり年季の入った大きな図書館があるのは知っていたが、まさかこれほどまで中が広いとは思っていなかった為だ。

「そうなの、つい一昨日位にお休み貰っていいですか?って。」
年配の女性が穏やかに話すと後輩、楠本はうーんと唸る。

「珍しいですよね」
「珍しいわよねえ、何でもほら・・あの美人の女性居るでしょう?」
「美人?」
「美人。何時だったか来て榎本君と楠本ちゃんもその時居たわ」
「美人・・、あ。あのぼんやり眼の?」
「そう、あの女性にミステリー館?ってところに一緒に行きませんか?ってお誘いされたらしいの」
「へえ・・ん、これって・・?」
そう言いながら楠本は首を捻った。そして其処で声をかける。

「楠本、言語の分野はどこだか分かりましたか?」
「あっ、えーと案内してもらっていいですか?」
「はいはい、お仕事ですもの」
にこりと笑い年配の女性はカウンターから出て自分の顔を見てあら?と言う表情をした。

「どうかなされましたか?」
「いいえ・・?何処かで見たような、きっと気のせいね。さあこちらです。」
実質年配の女性の言いたい事は分かっていたが、黙っている事にした。

「で、澪葉先輩どれを借りていくんですか?」
ずらりと、真横につながっている書棚を目の前に楠本が尋ねる。

「そうですね。とりあえず民族言語は除きます」
「世界中の言語だったら民族の方も要るんじゃないんですか?」
「要りませんよ。」
きっぱりという。理由があるのだ。

「先ほど、見ましたけどあの”紙”の中の単語には全て”国”としての言語が多いんです。」
「国、として?」
「そう、母国語・・と言ったらいいんでしょうか?日本なら日本語。中国であれば中国語。用いる地域によって少しの訛りのようなものは生じるしょうが、基本的にはその言語でしょう?」
「まあ、そうですね」
「それにその国に歴史的背景、もしくは複数の民族から成り立った国ではないのだったら尚更です。」
「ふむふむ、でも何で世界中ってさっき言ったんですか?」
「その方が分かりやすいかと。」
「成る程。」

「まあ、要因は其処だけじゃないんですが。」
「他にも何かあるんですか?」

既に両手には小さな辞書から大きな辞書までどっかりと乗っている。

「これは推測なので、あんまり勝手な事いえませんが・・あの不備」
「不備が?」
「あの不備の素を作った人間は上っ面の人間のようですね。」
「?」
「例えば、此処に新種の動物がいるとしましょう。で、楠本どうします?」
「どうするって、調べます。何処の動物のお隣り関係なのか、敵は何なのかとか、人にとって有害だったりするのかとか。」
「それがまあ人の好奇心ですよね」
「というより、理数系の性質かなあと」
そう言うと、澪葉はニコリと笑った。

「それが、認識するだけで終ってしまうんですよ」
「は?」
「認識だけ、ああ、生きてるな、とか、これは犬っぽいな、とかだけ。上っ面だけなんです」
「・・詳細じゃないってことですか?」
「そんな所ですかね、ああ、後鉱物の図鑑が欲しいですね」
「鉱物?」
「鉱物」
疑問を、答えとして鸚鵡返しする。

外を出て携帯のある番号をプッシュする。一応歩ける距離でよかった。やはり辞書や図鑑は重い。

『もしもし?』
「澪葉ですが、辞書とかかり終わったんですけどどうです?」
『あー、パソコンは何とかなったよ。中古のいらないって言う奴を貰ったし。』
「そっちにノートあります?3冊くらい」
『ノート?あー・・あるかな・・』
「1冊でも良いですよ?」
『とりあえず探しとく。』

「ええ、じゃあまあ帰り次第―反撃と行きましょう。」

Re:The words to shed lie in a black thing even in what time.

((↑零れる言葉は何時だって真っ黒なのにね。
DATE: 2009/11/27(金)   CATEGORY: 店主の宝物庫
オパール・ヘアー。
―何時だって幸せで居られるなら、それほど退屈な人生もないのだろう。

カラカラ、と講習用のホワイトボードの滑車の部分が音を立てる。一般のものより大きいのが特徴だ。

そして、そのホワイトボードに?から?まで番号が書かれ、その隣りにはコピーアウトしたらしい紙と文字が数行程度かかれてあった。

「まあ・・現在の状況を整理するとこんな感じなんですけどね」
見えやすいように、と青いペンで文字を書いてにこりと笑う青年―澪葉は言う。

「ていうか、このコピーどっから手に入れてきたんだよ・・」
末恐ろしいという顔をした眼鏡をかけた青年―流梨は呟いた。

「僕です。話を聞いた時にこれも一応渡されたんです。」
無表情に淡々と言う青年―梔が話す。

「んー・・要するに、会員制のオンラインゲームに不備っていうバグが生じたんですよね?」
少しだけ明るい茶色をした女性―楠本が尋ねる。

「ええ。それにしても・・梔のご友人がプリントアウトした言語を見ただけで吐き気がしそうなんですが」
澪葉がそう言って?と数字の書かれた隣りに張られてあるプリント類をパラパラと捲る。

「何かマズイ奴でもあったのか?」
澪葉のそんな言葉に流梨は尋ねる。

「そうじゃないんですよ・・、本気で世界中の単語ですよ。これ。」
「そうなんですか?」
そう言って澪葉の元へとトタトタと楠本が寄りぺらぺらと捲られる文字を見る。

「・・・んー・・、ドイツ語?」
「も、入ってますね。標準かな?それにスペイン、フランスがかろうじて分かる辺りですけど」
「かろうじて、か・・どうする?」
澪葉に流梨はホワイトボードにプリントアウトしている者を更にプリントアウトしたのをペラペラと捲り、更にしかめっ面をした。

「辞書とか借りて来ましょうかね・・」
「あっ、じゃあはい!私行って来ますよ!」
「楠本先輩、どこのほうに行くんですか?」

梔の言葉に楠本は若干真顔になった。

「榎本君の所、あそこ確か辞書の本とかたくさんあったし。」
「・・榎本、ああ、楠本が良く話してる司書の方ですか」
ぺちと軽く手を叩いて澪葉が言う。

「そうです、で、何の奴借りて来ましょう?」
「というか、澪葉と楠本で行った方がいいんじゃないか?借りる本のどれが必要化は澪葉しかわかんないだろ。」

ずり下がって来たらしい眼鏡を上げて流梨が提案すると、澪葉も頷いた。

「では、楠本道案内をお願いします。」
「了解です」

そう言ってパタパタと出て行く二人を見送る。

「俺らはどうするかな・・」
「パソコンの問題がありますけど・・」
「だよなあ」

そして、流梨は一つの事に気づいた。

このワールド・クロスの状況は確かに不備といえば不備だ。しかし―決定的な打撃がある。

「なあ、梔」
「はい?」
「このゲームって何時から配信されてたんだ?」

そう聞くと後輩はコピーアウトした紙の一枚をこちらに見せた。其処には今からおよそ3年程前の時間があった。どうしてそんなに穴が時間に開いたのか。

「・・陰謀、とかだったりしないよな・・まさか。」
嫌な汗が流れつつも、彼はソレを祈るばかりだった。

Re;Like a pure white spider line.
DATE: 2009/11/25(水)   CATEGORY: 店主の宝物庫
サファイア・ハンド。
―救いようの無い、なんていったらソレでこそお終いじゃない。

少しだけまだ冷房の効いた部屋に青春真っ盛りというような若者たちが3人居た。

「で、どうします?」
「いや、どうするも何も・・、問題が楠本に話すか、話すまいかだろう?」
「楠本先輩に話したら解決率も上がるとは思いますけど、それ以前にコレに関係せざるを得ない状況を作り出してしまう事パーセンテージの方が明らかに高いです。」
「だよなあ・・」

はあ、とその中の眼鏡をかけた青年がため息をつく。

「そういえば教授はなんと?」
「それがいらっしゃられないみたいなんです。」
「出張でしょうか?」
「いえ、今日午前中の授業を終えてから姿がふっと消えてしまったらしくて」
「奇奇怪怪って奴ですね。」

眼鏡をかけた青年を除く2人のうちの一人がにこりと笑った。

「ていうか、俺もネットゲーってやらないからあんまり知らないんだけど・・そんなにこのワールド・クロスって人気なのか?」

「人気も人気みたいですよ。何でもチャットは勿論、携帯のゲーム用のアプリとかあるじゃないですか。」
「テトリスとか?」
「そうそう、いろんな種類のアプリはあるし、育成ゲームなんてのも、あと対戦ゲームに・・さっき話したチャットとアバターを応用してのRPGみたいなのも出来るみたいですよ?」
「人類の進化っていうか、機械の進化だなあ」

「本当ですねえ!」

その言葉、どちらかといえば男性の声テノール、というがそれではなく女性の声ソプラノに近い、声が後ろで。

「ぎやああああああ!!」
「ぎやああああ!」

「叫びの連鎖ですね」
「動物のコミュニケーションですか?」

「突っ込めよ、澪葉に梔!本当に・・あー吃驚した。何時来たんだ、楠本」
「さっきですよ?」
「どこから聞いてた?」
「うーんと、私に話すと巻き込まれ率が~の辺りからですかね」
「全部じゃねえか!」

そんな女性と眼鏡の青年のやり取りを見ていた澪葉が提案する。

「流梨、この際もう突っ込みません?ワールド・クロスの・・不備とやらに」
「あ゛ー・・」

「はいはい、先輩達!」
「何だよ?」
「ワールド・クロスって何ですか?」

がんっと、流梨が額を実験台にぶつけた。

澪葉は笑顔のまま筋肉を一つも動かさず凍った。

「会員制のオンラインゲームです。」

梔だけが唯一説明した。

Re:The blue arm of a red name.
DATE: 2009/11/24(火)   CATEGORY: 店主の宝物庫
アクアマリン・フット。
「ワールド・クロス?」

なんだそれ、と言わんばかりの声を上げる男子学生が一人。ちなみに授業中だったために直ぐにその後声を潜めて、隣りに座っている人物にひそひそと話す。

「で、ワールド・・なんちゃらとかって何だ?」
「ワールド・クロスですよ、流梨」
「そうそう、ワールド・クロス」

後半が聞こえなくて、誤魔化すと澪葉は訂正しつつも黒板の文字を書き写しながら喋る。器用な奴だ。

「なんでも・・PCのオンラインゲームらしんですけど、最近不備が生じたらしいです」
「不備・・って?」
「それこそ、ありとあらゆるバグみたいですよ?」
「・・文字化けとか?」
「それもですけど、一番被害が高いのはメールのアドレスだそうです」
「アドレス?ああ、色んな業者の勧誘メールとかか?」

メールのアドレスと来たら、そんなイメージだったので流梨は答えると、澪葉は神妙な顔つきをしていた。

「それが違うみたいですよ、PCのメール機能が一時止まるくらいのメールが大量に、送られてくるらしいんです。しかもその内容というのが、今現在存在する言語全ての一言の単語らしいんです。」
「・・・おいおい」
「で、ネットの中でそのワールド・クロスに接続もしくは頻繁に出入りしていた人たちのPCは強制的にバグになってお陀仏・・といった具合らしいです」
「恐ろしいな・・最近は」
「ですね」

当り障りの無い鐘の音が響き、その日の取っている授業が終った。

「で?何でお前はそれを言い出したんだ?そのゲームにのめりこんでたって訳でもないんだろ?」
「ゲームはやりませんからね。そうではなくて、コレ」

ぺらり、と一枚のコピーしたらしい紙ッペラを渡される。

「なんだこれ・・えー・・『ワールド・クロスの不備を直してくださった方、もしくは不備の原因を突き止めてくださった方に謝礼金』・・って・・ありなのか?それ」
「企業元が出してる奴らしいですよ?PC関係の雑誌にも、一枚は組み込まれてるみたいですし」
「・・はー、でお前コレどっから見つけてきたんだよ」

当然の疑問だろう、と思い尋ねると澪葉は快活に笑った。

「梔からです」
「くち、なし?!何で又?」
「同じ授業を取ってる子から直せないか、聞かれたらしいですよ。それで事情とかあらかた聞いたらしいんですけど・・、どうなんでしょうね?」
「いやいや、そこでどうなんでしょうね?って」
「一応、教授の方に相談するよう進めてみたんですけど・・楠本辺りが飛びつきそうな話じゃないですか。」
「まあな・・」
あいつだったらありえそうだ。というか、ありえる。

「この会社も幸せですね。不備が直されそうで。」
意地の悪い笑みを浮かべて、澪葉は笑う。

おそらく、この不備に教授や楠本が興味を持つことは勿論、梔もやるのだろう。ということは、最終的に。
「ゼミフル活動じゃないか・・・」

直ぐに脳裏に浮かんだ本の先の未来を確定する言葉を流梨ははいた。

Re:The stride to the deep sea.
DATE: 2009/11/22(日)   CATEGORY: 店主の宝物庫
カフカの話。
―もし一枚の紙を渡してとある人物の全てを書け、といわれたら貴方はどこまで書けるだろう。

私はその日、その場所、その時に居た事を後悔した事は無い。

「ミネガマ君、君はカフカを知っておるかね?」

秋間近なこの季節にチョッキを着ているがでっぷりとした身体の為か、チョッキのボタンは既にはちきれそうで見ているこっちが哀れだった。嗚呼、このトド教授め、と私は心の中で言った。

「いいえ、存じ上げません」
「なんと、今時の学生はカフカも知らんのか。カフカは『変身』や『審判』といった著名な作品を書いた作家だ。それくらい覚えておきたまえ」

知識の一部をひけらかすというのはそんなにも偉かったか。少なくとも、違うだろう、そのベクトルは。と思っていると、私とトド教授が居た通路は十字の廊下の真ん中でその十字のひとつの方向から痩身の男がやってくるのが見えた。

その事も含めて最悪だった。私に倣って教授もそちらを見て痩身に男を発見し声をかける。

「やあ、リガキ君」

教授がそう言うと、男は今気づいたという顔をしてというか今気づいたんだろう。この人の場合。

「今日和、教授、ミネガマ君」
にこりと、挨拶をする痩身の男もといリガキ。この人も教授の一人だがトド教授よりも年齢は下だ。ついでに言うなら、もっとも嫌いな人物。

「聞きたまえ、リガキ君。こちらのミネガマ君はカフカも知らないらしい」
「そうなんですか?」

そう言ってこちらを見たが、彼の表情はどうも、おかしいなあというような表情だった。この人は分かっている。

「君は勿論カフカを知っていると思うから、教えてやってくれないかね?」

嗚呼、罠だ。間違いなくコレは罠だ。

「構いませんが・・」
こちらもこちらで渋っているというより、知っているがために、どうしようか、と思っているのだと思う。

「フランツ・カフカは『変身』などの作品が有名ですが―・・」

教授がにやり、と笑う。その瞬間私は嗚呼、この人は馬鹿だ。よりによってこの妄想癖の男に話を書けるなんてと思っていた。

「教授は、カフカが公園を散歩していた時のとある話についてご存知ですか?」

トド教授が豆鉄砲を食らったような顔をして、ごほんとせき込んで「なんだったかな?」と尋ねる。

「カフカは公園で散歩をしている最中に、そこで人形を無くした少女と出会うんです。彼は少女を慰める為に、『君のお人形はね、ちょっと旅行に出かけただけなんだよ』と話し、翌日からずっと少女のために『お人形が手紙を送ってきた』と手紙を書きました」

教授がぽかんと、している。

「この人形の手紙はカフカがプラハにいられなくなるまで何週間も続いたそうです。そして、ベルリンを去る際に、カフカはその少女に一つの人形を手渡しそれは『長い旅の間に多少の変貌を遂げた』その少女が無くした人形なんだよ、と説明するのを忘れなかったそうです。」

にこりと、男は笑う。

「・・そう、そうだったね・・はは」
トド教授の先ほどの威厳、というより傲慢さは空気中で離散したらしい。そして、教授は青い顔をしてそれでは、と言い去って行った。

すると、リガキ教授はこちらを見て「それにしても不思議だ」といった。

「何がでしょう?」 私は、その答えを知っていたがあえて聞いた。

「先ほどの話はイナバ君から教えてもらった話なんだけどね、彼は君から古典の授業の時に作品を知るためには作家の横話も知るといい、と言われて教えてもらったと言っていたんだけど、違っていたかな?」
はて?といわんばかりに背の高い教授は首をかしげ私の顔を見た。

「いいえ、そうです。私は知っていました。」
「なら、どうして?」

「私、あの教授が嫌いですから」
一方的な結論を言うと教授も又先程のトド教授の豆鉄砲を食らったような顔をして笑った。

「そうか、そういう事だったのか。なるほど、確かにあの人の話はべっとりとするような物言いだし、僕もあまり好きではないけどね。」
結論を受けて教授は納得した、そして面白いと言わんばかしににこりとしている。

「けどね、ミネガマ君」
「なんでしょう?」

「時間を急いでいるんだったら、教授と学生とかそういう前に、急いでいるんです!といえば誰だって逆らえないよ。」
「左様で」
「左様だよ、嗚呼、ほら急いで行きなさい。」

そう言われて私は走り出したが、走って少し経ってからぐるんと回れ右をして教授に叫ぶ。

「有難う御座いました!!」
そう言うと、教授はぷらぷらと手を左右に振り自分の進行方向へと戻って行った。

かくいう、そういう話。

Re;
DATE: 2009/11/20(金)   CATEGORY: 店主の宝物庫
リトルホープ。
―小さな事で幸せになれるんだ。知らなかったでしょう?

「で?」
「グラタンですよ?」

「いや、グラタンだけどな?注文どおりだと何か恐ろしいんだが?」
「人の善意を無駄にするんですか?」

そんな会話がとある料理店でされる。彼らを知っている者達から言わせればその会話は”回転銃”のようだと例えられる事が多かった。本人達は全く気づいていないのだが。

「善意?・・・・・何か俺あったか?」
「昨日まで城で書類を片付けていたと、テノーラさんから聞きましたけど?」
ああ、と言って男はぽんと自分の手を叩く。

「ああ、あれな・・、あの時ほどフランシスの劇を見に行きたかったときは無い」
「現実逃避ですか」
「息抜きといえ、息抜きと」
そう言って、スプーンをグラタンに突っ込むとチーズが良く伸びた。

「はあ、まあ、お疲れ様でした」

そういう彼女を見ると、何ですか?と逆に問われる。

「いや、珍しいな、と」
「そうですね」
「納得するのか」
「ええ、一応。そういえば、先日国に来た方たちは?」
「ああ、住居の設置も終ったし・・怪我の方ももう少ししたら完治するだろ」

ふう、とチーズに生きを吹きかけ冷ます。

「良かった」

にこりと、自分のことのように嬉しそうに笑う彼女を見て男は本当に今日はどうにかしている、と思いながら目の前にあるグラタンを食した。

「・・珍しい事尽くしだ」
男の呟きは彼女には届かなかった。

Re:your message
DATE: 2009/11/18(水)   CATEGORY: 店主の宝物庫
トゥインクルタイラント。
―地の底から這い出るような、そんな気持ちを誰がわかってくれたんだろうか。

キンッ!と鋼同士がぶつかる音があちらこちらでする。

キンッ、キンッ!―絶え間ないその音に耳を瞑りたくさえなる。けれど、瞑れないのだ。瞑ってしまえば終ってしまうから。

「くっ・・そおおおおっ!!」

ガンッ!と勢いよく力を剣に託して振るうと相手にすっぱりと剣は入ってしまった。

「・・・・ははっ」
瞬時に肺の中に酸素が入りすぎて、せき込んだ。悲しい。自分の国はどうしてこうなのか。それは自国の王のせいである。

王は、自分は戦わぬと言うのに戦争を仕掛ける最悪な王であった。それこそ、民をチェス盤のコマとでも勘違いしているのだろう。彼は、いやあいつは自分と言う名の差し手以外は全てが本当にコマとでも思っている。

それでもどうして自分たちは王に反逆しないのか。それこそ甚だ疑問であるが、答えは簡単だ。

おそらく王にくみする奴は居ないだろう、だが謀反を起こしたその後だ。そんな王に反逆の意を示した十字軍たる自分たちを受け入れる国がどこにあるだろう。受け入れた国があったとしてもそれはきっと、どうしようもない国だ。俺たちはそれを、分かっていた。

俺たちにはまるで生きる気力も、何もないのだろう。

そう思っていると、右目にくすんだ金色が見えた。即座に反応し剣を振るう、と―。

キンッ!

「・・何だ?お前」
そこには訝しげに眉をひそめる若者がいた。おそらく俺より年齢は上だろうが若い。俺の剣を受け止めた剣は短剣らしかった。それでよくもっていられると半ば感心した。

「あああああああああ!!」
叫びながらもう一度剣を振るう、すると、若者は軽く横へステップし俺の剣を避けると俺の服を掴み首筋に短剣を添えた。

「なんだか分からんが動くな、命はとりたくない・・っていうかなんで俺が攻撃されてるのか教えてくれると助かるんだが」
困った、という表情を若者は浮かべていた。

「・・?お前、どこの・・」
俺も首に短剣を添えられつつもそうやって尋ねる若者に疑問を投掛ける。

「?俺?俺はもう少し南にいった所の国のものだが、・・・戦争か?」
「・・馬鹿な王のせいで俺たちは毎日コレだ」
苦し紛れ、というよりほぼ自嘲に近い具合に答えると若者は神妙な顔つきをした。

「・・お前ら全員戦いたくないのか?」
「当たり前だろう、生まれたときから教え込まれたのは戦術だけ、生き残る術だけだ。なんでそんな悲しい思いしなくちゃ成らない。」
「どうして、王に逆らわない?」
「・・逆らった所で俺たちは謀反人だ、そんな俺たちを、犯罪者をどこの国が受け入れる」
それで、若者はきっと救いようが無い、と諦めると思った。けれど。

「―俺の国がある」
若者はそう答えた。混じりけの無い目でこちらを見てはっきりとした声で答えた。

「は?」
「だから、俺の国がある。俺の国は誰も拒まないぞ?犯罪者も、病人も、農民も、貴族も、ギャングも、動物も、花も、太陽も、月も、雨も―全部受け入れる」

にこりと快活に笑う若者を見て、俺は不安に陥りそうになる。

「何を・・そう言って、また戦争に俺らを使うんだろう!?」
「使わない、というより戦争なんてやらない。」
「・・・・どうして」

「王は、民なしでは生きてゆけない。王が国なんじゃない、民が国なんだ。国の意思は民の意思。俺は、何よりもそれを―」

嗚呼まるでこの若者は自分が―

「守る」

王様のように喋る。

「あんた・・・一体何者だ?」
気づけば俺は血がしみこんだ大地に竦んでいた。

「俺か?俺は―」

きっと俺たちは彼の名前を忘れないだろう。いや忘れる事が出来ない。何しろ彼は―

「アーサー。アーサだ。」

今からも、これから先も出会うことの出来ない貴き我等が暴君なのだから。

Re;輝く暴君。
DATE: 2009/11/14(土)   CATEGORY: 店主の宝物庫
メイビーワールド。
―あっちへ進めば幸せが、こっちへ進めば悲しみが、でも正直言ってどちらが正しいのか判らない。だって私は未だ行った事がないのだから。

すうっと思い瞼を開けると容赦無く白い光が飛び込んで来て、思わず一度瞼を閉じる。

「あら、やっと起きたわね」

「・・母さん?」
「3日ぶりね」
「・・3日?・・・・・3日っ?!」
目羽は十月から知らせれたその日時に驚いた。3日も寝ていたと言う事になる。

「そう、この前出て行ってから3日経っちゃったのよ・・早いわよねえ。あ、目羽明日行方君とお祭り行くでしょう?」
「・・へっ、ああ、ていうか行っていいの?」
ぺたり、と額に十月が手を当て、自分に確認するように頷きながら喋る。

「熱もないからオーケー。良かったわね、起きれて。でも今回は少し吃驚したのよ?」
「え?」
「だって緑青が血相変えて意識がないって言うんだもの」
緑青とは、彼女と『縁』の『記憶』のプロテクトだが、あれも血相を変えるなんてことがあるのか。

そう考えていると、頬を思いっきりつねられた。

「いたい、いたい、いたい、いたい!!」
「心配かけた罰ね、緑青への。」
「そこは母さんじゃないの・・・!」
「それじゃあ、私の分も」
更に力が込められて、そのままえぐるのかといわんばかりの力になる。

「す、いません、でした!」
「良く出来ました。」
ひりひりとする頬を撫でながら目羽は尋ねた。

「その、緑青は何処行ったの?」
「行方君の所」
「そんなに仲良かったっけ?」
そう言えば、加勢に来た時も頼まれたとか言っていた気がする。十月は水をコップに注ぎなら笑って言う。
「ふふ、目羽の代わりに見守ってくれてるんだと思うわ。」
「見守る・・?」
「そう、緑青は優しいから」
「・・・、」
「納得しなくてもいいから、知っていて頂戴」
「分かったけどさ、それ本人の目の前で言わない方が良いと思うよ、母さん」

「あら、どうして?」 少し不満そうに十月は言う。
「緑青は照れ屋だからだよ」
「・・・・。覚えておく。」
むうと、小さく唸って十月は了解する。

その光景に僅かな平和と感じて目羽はとある事を思い出し、同時に違和感に気づいた。

「あれ?」

あんなにまで、五月蝿く『記憶』に這うように響いていた、呪文のような、歌のような言葉が消えていた。そして、あの声の言葉を思い出した。

『努力賞をあげようと思って、君と彼に―』

自分への努力賞はあの歌を取り払うことだったなら、行方には―?

嫌な汗が流れ始めたと同時に電話が鳴り、目羽は電話を取った。

「もしもし?」
『もしもし目羽?』
「ああ、行方―丁度良かったお前何か変な事起きなかったか?」
『変な事?・・多分おきてないと、緑青さんボク変わったところありますか?』
電話向こうに居るらしい緑青に尋ねている。

「いや、なきゃいいんだけど」
『そういえば、九重様六さんに逢えたよ』
「・・そりゃ良かった」
実際不安だったのだ。縁結びの力がほとんど無くなっているのだから。

『九重様も嬉しがってた、けど九重様は不思議がってた。』
「何が?」
『自分の縁結びの力が、目羽に願い事を言った時と同じ、本当に少しだけどそっくりそのまま残ってるから』
「・・それは、どういう?」
『九重様は自分の力を使ってない、ってことなんだと思う』

―君と彼への・・・     つまりで、そういうわけか。と目羽は理解した。

『目羽?大丈夫?』
「ああ、悪い。それじゃ、明日」
『うん』
ぷちり、と電話を切り目羽は思考を一時停止することに決めた。

Re;shout out the my brain
DATE: 2009/11/13(金)   CATEGORY: 店主の宝物庫
とある狐の物語。
―何を話そう、何を語ろう、何を貴方に伝えよう。

かろん、と下駄を鳴らして赤く目を晴らしたそれはやけにはかない。

石畳にぶつかると、下駄は自然と音が鳴る。からん、からん、と周囲を見渡すように、その光景を忘れないようにそれは見ていた。自分がずっと居た場所を。

「―・・・、うん、頼むね、目羽」
そういう先には、長髪に羽の髪飾りをして右腕には腕時計をつけた青年が立っていた。

「・・?どうしてそんなに仏頂面なの?」
「毎回こんなんなんだよ。」
「・・、別れるのが辛くなるから?」

図星といわんばかりに目羽は顔を俯く。

「大丈夫、私は君ともつながっている。名を呼んでくれたら、きっと現れる。それだけは約束する。」
「・・、あんたは行方の”記憶”を飛ばした原因が何だか知ってるのか?」
目羽がそう尋ねると、九重は顔を曇らせた。

「曖昧、なんだ。けれどこれだけははっきりいえる。もしそれとであったなら目羽お逃げ。何があっても、逃げる事を選ぶんだよ。間違っても、それから行方の残りの”記憶”を取り戻そう何てしちゃいけない」

「・・それは―」

ぽうっと、九重がほたるのように一つ、一つ、けぶりだした。

「”星”空―あの時も、六と別れたあの時もこんな風に星が煌いてた・・。」
それにつられて目羽は夜空を見た。きらびやかな星が輝き、星座にも取られる星がこの中にあるのだろう。

「また、会おう。目羽。そして、心よりの感謝を君と行方に―」
「嗚呼、安心して帰ってくれよ。」
そう言うと、にこりと九重が笑った気がした。

主が居なくなった神社は不思議なまでにしんとしていた。

そして、目羽は帰るかと思い足を一歩踏み出した。すると。

「随分とお優しい事をするんだねえ―」
子供のように無邪気であり、老人のように老獪な声が届いた。周囲には誰もいない。

「ふふっ、今は未だ見えないよ。けど、頑張ってるみたいだから、努力賞を上げようと思って」

「君と、彼に」

「・・彼?誰の事だっ?!」

「決まってるじゃないか―記憶を奪われて、自分が何なのかも思い出せず、いとおしい母の思い出さえ一事はなくなった、彼」
「―行方・・・・なんでお前がそれをっ!?」

「なんでだろうねえ、けど君は間違いなく一歩進んだ。彼も一歩進んだ。誇りに思って良いよ。まあ、それが良いか悪いかは、未だ不明だけどね。それじゃあね。」

「なっ、待―!!っ!!」
追いかけようとした瞬間、頭の中で光が内側から弾けた。

そして、うるさいまでに鳴り響いていたあの歌が消えた。

それに気づくまで―いや、起きるまで目羽は少しの時間を要する事になる。

Re;wait the coming time
DATE: 2009/11/12(木)   CATEGORY: 店主の宝物庫
メロウホワイト。
―ゆらゆら揺らめいては、人惑わせる、畜生の名を、此処に刻む。

すうっと、着物から生白い腕が現れ虚空をかき、九重は夜空を見た。

「・・・目羽、私にそれは出来ないよ」

ぽつりと九重は言った。その言葉に長髪に羽の髪飾りがついた青年―目羽は酷く驚いた顔をした。

「お前がプロテクトだから、か?」

隣りに居た冷気を纏っている人の姿をした十月のプロテクトである緑青は九重を見ていた。

「・・そうじゃないんだ」
「じゃあ、どうして―!」
九重が目羽を見た。悩んでいるような、悔やんでいるような表情をして。

「私は充分なんだ。君や行方のような人にも出会えて―六のような、友人にも会えた。だから、もう私が願う事は何も無いよ・・」
貯まっていた、けれど言ってしまえば消える事が判っていた願いを九重ははいているように見えた。

「・・っ!」
目羽は何を言えばよいのか、分からなかった。

下手な事を言えば九重を傷つける。それが分かってしまった。だったら、どうやって―

そう思っていると、隣りに居た冷気が移動した事に目羽は気づいた。緑青が九重の手前に居た。

「・・?」
「言葉を伝えれないのは、悲しいです。けれど、言葉が言えなくなるまでに待つのも辛いですよ」

「・・っ」

「貴方は行方の”記憶”なんです。”記憶”の主人が、言って欲しいというなら甘えてしまった方が得策です。それに―私たちもまた何時忘れられるのか、記憶の井戸の中に放り込まれるのか分からないんですから。」

最後は皮肉めいていたが、彼もまた九重に何か伝えたかったのだろうと目羽は思った。

九重は緑青を見つめ、視線を石畳へと移し変えた。

「・・・私は、何になれば―」

「んなの、決まってるだろ」
目羽は一歩歩みだして、顔を上げた九重に告げる。

「九重、あんたは行方の神様だよ。大事な、あいつの”記憶”を守ってくれたんだから」

それに、と続ける。

「俺もあんたと同じ立場だったら、同じ事をしてた。悲しいよな、知っている人が、友達が、家族が、一人でも隣りから消えて居なくなって、最初は形も、声も、覚えてたのに」

「時が来たら忘れちゃうんだ」

ぽとりと何時の間にか目羽の目から涙が落ちた。それを聞いて九重は顔を覆い、ぐずりと泣きながらも答えた。

「私の、縁の結び神の私の願いは―」

嗚呼、やっと言える。

Re;sound only
DATE: 2009/11/11(水)   CATEGORY: 店主の宝物庫
ろく。
ぼうっと青白い炎が石畳を覆うように宿った。それを、凄まじいまでの冷気が波のように襲い掛かり炎はその冷気を熱気で対抗する中、次の瞬間低く唸るような雪風が炎を消した。更に、すすっとまるで這うかのように緑の若々しい根が炎を消した石畳を進んでいた。

そして、かろん、と何処からともなく音がしたとき根は恐ろしいまでのスピードを見せその足音の主の足を掴んだ。その主は、その根を見て片手を根に触れようとした瞬間―

「その根を燃やそうと思うならやめたほうがいいですよ?貴方の手を凍らせますから」
淡、と言った見た目は若い人のようなそれが言う。

「・・スピード勝負、って言う所じゃないかな?」
足音の主はにこりと笑う。相手の言葉を恐れてはいないからだろう。

そんな言葉の交わしをしていると茂みから一足遅れて、長髪に羽の髪飾りをしている青年が生きを少し切らせながらやって来た。
「遅いですよ」
「うっるせ・・!」
そして、新しくやって来た青年は根に捕まった人をじっと見た。
「なあに、目羽?」
その人は捕まっているというのにやんわりとして青年に聞いた。

「九重あんたなんで捕まった」
当然のように彼は聞いた。隣りに居た冷気を纏うそれは訝しげに目羽を見ていた。そして九重と呼ばれたそれは、微笑んだ。慈母の如く。

「私が捕まるのはおかしい?」
「あんたは今プロテクトだろ?ならその根は避けれるはずだ。緑青と互角でも、だ。それになんでわざわざ下駄を鳴らす」
目羽が尋ねると、九重はふいに石畳を見て呟いた。

「・・・・、優しいのは、恐ろしいよ」

「え?」
目羽が唐突な言葉に短く言葉をはく。

「この、”星峰神社”がどうして縁の場所だといわれているか目羽君は知ってる?」
「それは・・、あんたととある人の友情があったからじゃないのか?」
目羽は少なくともそう教えられていた。九重という狐と、人との、友情。

そう思っていると、がりっと石畳を引っかく音が聞こえた。九重が俯いて石畳を引っかいていた。

「違うっ!」
目羽は今までに聞いたこともないような悲痛な声を聞いた。

「私はこの山が酷く蓄えが無い時に生まれた、母は山里を降りて人里へと食べ物を取りに行ったまま帰ってこなかった。私も何時飢えで死んでしまうか判らなかった。そんなとき、あの人に、六にあった。」

「六は、私に魚をくれた。私は彼に礼を言いたかった。その時人里にはたくさんの獣が食べ物を求めて下りて行って、嫌っているはずなのに。六は、優しかった。それから毎日六は魚をくれた。私もお礼が言いたかったけど、六に獣の言葉なんて通じる訳がなかった。そんな、日々が毎日続けばいいと思ってた。獣と人の、言葉も、通じないけど、よき友人に、なれると思ってた。」

「でも、六の村の他の農民の人たちが六の家に来て六を責めた。俺たちの畑はあんなに荒らされていたのに、なんでお前だけ荒らされないのか。って。だから、村の農民たちはこう言った。お前が、俺たちの畑に畜生たちが入るように仕掛けてるんだろう。と。」

大した言い掛かりだと目羽は思った。だが、必死なのだ。その農民たちも生きる事に。

「六は違う、と言った。けど私に録画魚をくれているのを見ている人が居て信じてもらえなかった。」

「そして、六は―袋叩きにあった。」

「皆、皆、六を責めた。私を助けたばっかりに、六は―死んでしまった。私は六の側に行くと、六は虫の息だった。私の事を見ていた人が、こいつだ!と叫んで私も袋叩きに合った。そして、何も分からなくなった。でも、しばらくして上から声が降ってきた。」

「・・声?」 緑青が、問うた。

「声だった。『憎い?』と聞かれた。私は『悲しい』と返した。声は又聞いた。『君の願いは何?』」

「私は答えた。『六を、友人を殺した彼らが許せない』と。声は言った。『なら、叶えてあげよう』って」
「っ!?それは・・どういう」
「私はその声が聞こえ終わるとこの姿になっていた。そして、村には桶をひっくり返したみたいに大雨が降っていて、農作物は全て駄目になっていた。しばらくして、その村で私と、六を弔う場所が作られた。彼らはあの大雨は私たちが原因だと思ったんだ。」

「実際に、あの大雨は私が言った願いが原因だった。私は婉曲された逸話の友人を失った悲しみと村人たちの理不尽さに負けた狐だった。」
ぽとり、ぽとり、と涙が九重の目から溢れていた。

「私が、六を殺したのも同然なのに。」
嗚呼、この狐も―と思っていると緑青が目羽を見ていた。

目羽は、一歩九重の元へと踏み出した。青白い炎は未だ灯されていたが目羽は気にせず歩いた。

「・・・、九重様。」
九重が涙で溢れた目で目羽を見上げた。

「行方が、九重様の願い事を言って欲しい、って。」
「・・あ」
「俺の願い事、かなえてなかっただろ?だから、それをあんたの願い事に俺はするから、あんたの、本当にかなえて欲しい願い事を言って」

ぽろ、ぽろ、とまた涙が零れ落ちそれにつれて狐火は音を立てて消えた。

Re;good-bye
DATE: 2009/11/09(月)   CATEGORY: 店主の宝物庫
リンカモノ。
―尾を打ち振り、火を灯し、吐息を吐けば、光がとぼし、暗闇歩けし、誰か。

かろん、と石畳が鳴る。いや正しくは、九重の下駄が鳴らせているのだろう。何故、だろう、というのかといえば九重の姿が見えない事にある。
暗い闇に九重はすうっと消え、時折下駄の音が鳴るが、それこそ罠のような気がする。

「堂々主義の時代は終ったな・・・!」
苦し紛れに呟いていると、すうっと自分の目に前に青緑色の炎が現れ―

どんっ!!  一気に爆発した。

「なっ?!反則だろ、九重!!」
あまりに不意打ち過ぎる攻撃と、見た目とは正反対の攻撃力に目羽は怒鳴った。
息をするのさえ億劫になるほど走る、すると又目の前には炎の球がひゅうっと現れ、避けようとするとそちらにも炎の球、球、球、さしずめ祭りの提灯のように続いていた。

「・・・!?こんなのどうしろって・・!」
目羽の力はプロテクトと同様に、いやそれ以上かもしれない。が、それ以上に九重のコレは厄介だ。

すうっと又青い緑色の炎が現れる―嗚呼、今度は避けれない。

身から血の気が引きかけていると、ぱり、と炎の球が根元から凍りだした。ぱりぱりぱりぱり、それはやがて石畳さえも侵食しだした。

「・・新手か?!」
そう言って、後ろを振り向こうとした瞬間ガッ!!という音と鈍い痛みが後頭部を襲った。

「っつ!!誰だ、畜生!氷の礫なんで物騒なもん投げやがったやつは!」
あまりの痛みに、目羽は怒鳴った。カツ、カツという靴の音が響き、見上げる。

「投げやがったやつですが、何か?」
にこりと、緑青が笑った。いや、嘲った。突然の自体に目羽はぽかんとした表情をし、そして現実に戻された。

「何でお前が、此処に!?」
「彼に、泣きつかれましたので。」
簡素に答える緑青の言う彼、とはおそらく行方の事だろう。

「伝言をお預かりしてますけど、聞きますか?」
「こんな状況でか?」
「だから、かもしれませんよ?『九重様のお願い事を聞いて欲しい』なんて、まさに今しか言えない事じゃないですか」
行方の伝言に目羽は軽くよろついた。状況が状況であるのに、この言葉。ソレは正しく―

「全部に泣いてあげれて、全部を喜んであげれて、全部に怒ってあげれて、全部に幸せであって欲しい、幸福論者のようですね、彼は」
「・・その記憶たちもな。」
「ところで、ご存知ですか?」
「何を?」
「先ほどの炎色があったでしょう?」
「緑色だったな・・そういや」
「炎の色、というのはその炎の温度を示しているんです」

この状況での、この説明に目羽はタラリ、と汗が出だした。勿論、嫌な方の。

「一般的にオレンジ色の炎は温度が低く、先ほどのような青色の炎は―最も高いそうなので気をつけて、避けて下さい。さっきみたいに凍らせて助けるなんてありませんから。」
何のために来たんだ、と思わず突っ込みそうになったのと同時に、緑青は冷気を出し始めた。

なら、やるしかないのか。壊さず、守るが如く、返す為に。

「『言わず、聞かず、見ず、そして、君が命について捨てず』」

短い雷鳴が鳴った。

Re;odd night
DATE: 2009/11/07(土)   CATEGORY: 店主の宝物庫
金色雨。
―ぽたりと空の上から落ちてくるのは、この上ない優しさの固まり。

それはピーヒャラという尺八の音であったり、他愛のない喧騒であったり、道に横ばいに構えられた露店から客を捕まえるための呼び込みの声であったりする、音と言う音だった。

「相変わらず凄いな」
人ごみを掻き分けながら目羽は道を歩く。目的地は九重の居るところだが、不思議な事に露店は九重の居る境内までは延びてはおらず、そして誰もそこで花火を見ようなどとはしない。

そして、九重の出した条件をまだ目羽は思い出せていなかった。いや、思い出せる。

思い出せるのだ、この歌さえ、呪文さえ”その記憶”の周りを這いずり回らなければ。

ふと、空を見上げればやけに空にある星が光って見えた。

境内に行くとやはり誰もおらず、周りを見渡していると

「今晩和、目羽」
声の方向を見ると、象牙色の長髪に着物を着こんだ九重が前と同じく像のあった場所に座っていた。

「どう、答えは出せた?」
にこやかに笑い尋ねる九重だが、目羽は違和感を感じた。

「いいや、生憎としつこい何かがあるみたいなんでね」
「そう、じゃあ私は君にプロテクトとして相手をする事になるけど、構わないかな?」
「・・・その前に一つだけ聞きたいことがあるんだけど、聞いていいか?」
「・・・、どうぞ?」

この前から、ずっと気になっていた。九重は力が衰えたという。けれど、仮にも神たる九重の力を弱めさせる、モノとは一体何だったのか―。

「九重、お前の力が衰えたのは行方の”記憶”のせいなんじゃないのか?」
「可笑しなことを言うね、目羽。私だって彼の”記憶”なんだよ?」
ぎしり、と空気が軋んでる。

「ああ、確かに行方の”記憶”だ。だけど、前から不思議に思っていたことがあったんだ。」
「・・なあに?」

「あいつは、”記憶”が飛び散った時、唯一覚えていた事があった。自分の名前や、誕生日とか、そんな根っこにあるモノとは別の、”記憶”」

「・・俺と行方が友達だっていう”記憶”だけはあいつは覚えてた」
「・・」

「それにさっきあいつはここでの、昔の”記憶”の欠片を見て自分が九重に願ってるのを見たって言ってた。それで、俺はこう思ったんだ。」

「もしかしたら行方は九重、あんたに『ずっと友達の事を、忘れず友達で居られますように』って願ったんじゃないかって。」

ドーン!と、花火の上がる音がする。夜空に星と花火が並ぶ。人はどちらを見ているんだろう。

「・・・・大当たり、だね。確かに行方はあの時そう願った。そして、行方の”記憶”が全部飛び散りそうになったとき、力が発動してその”記憶”だけは残された、けどね―予想以上だった。」
「・・何が?」
「行方の”記憶”を奪ったやつの力は私があの子にかけた力以上だった、だから私はその反動で力を持っていかれた。今思えば単純な話だね。」
かろん、と下駄が音を立てる。

「―けれど、目羽私が君とプロテクトとして戦う事は避けれないよ?君は答えを未だ出せないんだから」
「・・・分かってる、あんたと戦ったらこの”邪魔な歌”も消えそうな気がするし」
目羽の右腕の腕時計はしずかにこのときまで時間を刻んでいた。しかし、カチリ、と初めて狂いを見せた。

「私は、九重。人と、人の、或いは人と何かの縁結ぶ獣、始めようか、目羽」

違和感。あの、違和感は、何日か前になかったあの違和感の名前は、きっと後悔だった。

Re;bad end
DATE: 2009/11/06(金)   CATEGORY: 店主の宝物庫
ヒーローヒロイン。
「だっておかしいじゃない!」

「何がですか」
げんなりという様子で青年の方は冒頭の台詞を言った人物に尋ねる。

傍らでは、ポコポコという何かが生成されているような音やゴゴーというバーナーの低音が響いたりなどしている。ここは、魔窟か。と全貌がわからない人は思うであろうが、実際は違う。

「ヒロインはどうして停滞しているの?停滞しなきゃいけないの?どの子も守られたい派なの?それともただ静かで平和で自分に一番傷がつかない道を選んでいるだけなの?どっちなの?!」

最後は半ば本当にわからないというように、彼女は言う。一方の青年は試験管に、もう一方の試験管に入っていた液体を注いで蓋をしっかりしめた。

「いつから、楠本先輩はそんな風に思ったんですか」

その言葉とは裏腹に視線は試験管一直線だったが、楠本、と言われた女性は青年にかたる。

「良い事聞いてくれた梔!古典や漢書なんかで出て来る美人の人とか、コリだったり、妖怪のたぐいだったりするのが多いんだけど、海外ものみたいに、受身じゃないの」
「はあ・・それで?」

「要するに、逆に出し抜いてやってる感じが海外物には足りない!もっと、こう・・ヒロインがヒーローになっててもありだと私は思う!」
「・・・コリって何ですか?」

「ん?コリ?狸や狐のこと。よく出て来るんだよ。一番出し抜くって言う意味では、漢書の鳥の女の人の話かなー・・知ってる?」
「いえ、専門外です」

「じゃあ、話す。男が、鳥の天人たちを見てその中に一際美人が居たんだけど、彼女達は衣がなければ飛べないらしいのね、で男はその衣を女から奪って妻として迎えて衣は女の手に渡ってしまえば逃げられる事は判っていたから隠しておいたの。」
「強欲ですね」

「んー、まあ自業自得になるんだけど。で、女の子を授かりすくすくと育ったある日、女は子供に、男が隠した衣を持ってきて欲しいと頼んだの。子供は母親のもとに衣を持ってきて、女は衣をまとって子供に何年後かに迎えに来るといって空に戻ったのね。
で、約束どおり女は子供だけを迎えに来て、男は一人ぼっち哀れ哀れって感じのやつなんだけど」

「要するに?」
いくら試験管を見ていても、変化がないので失敗かなと思い中の液体を中和する為の物を注ぎまた蓋をした。

「梔、野球部のヒーローになる気はない?」
「まったく」
「だよねー!」
けろり、として先ほどの空気をぶち壊すように楠本は笑った。梔もそれが判っていたためか作業を黙々と続ける。

「そういえば先輩これまったく反応しないんですけど」
「だって梔途中から試験管間違えてたじゃない」

「・・・、間違えてましたっけ?」
「ううん、私がさっき入れた変えたから。まあどれも無害のやつだからいいかなーと思って」

「・・・、先輩人の邪魔すると痛い目見ますよ?」
「一理あるけど、梔そうでもしないと実験中断しないでしょ。ご飯食べに行こうよ。お昼なんだし」

「・・・、もう一回やってか「はい、駄目駄目。流梨先輩のお弁当まってますよーっと」」

Re:not perfect
DATE: 2009/11/04(水)   CATEGORY: 店主の宝物庫
明日雨になあれ。
―手放したくないものがどんなに大切かなんて、自分にしか判らないわ。

「で、何で又”星峰神社”にいったんだ、行方」
長髪に髪飾りの羽をつけて、右手にはこまやかな細工の腕時計をしている青年が問う。

「一編見ておきたかったんだ。自分の”記憶”が、あった場所。心配をかけたなら御免ね、目羽」
行方といわれた彼は問うた青年に謝り後ろに従える狼二匹の頭を撫でた。

「それにしても・・なんで『枢木丘』のプロテクトがでてるんだ?」
目羽が首をかしげて言うのを見て行方も首をかしげる。お互いにわからない状況と言う事だ。

「簡単な話ですよ」
声がする方向を見ると、静かな冷気を纏った人が一人コップを二つ持って立っていた。

「緑青」
目羽が言うと、どうぞ、といい行方に渡し目羽にも押し付けるようにコップを渡した。

「有難うございます」
「ありがと、で、今の簡単な話ってのは?」
ずずっと、おそらく目羽の母である十月が持って行ってくれと頼んだのであろうそれを飲みながら目羽は緑青に尋ねる。

「彼の”記憶”が溜まりつつある証拠ですよ、プロテクトが引き出せるって言うのは。」
「なんでだ?」
「例えは悪いですが、ゲームなどのセーブデータを思い浮かべてください。この場合、ゲームの本体は彼自身、そしてセーブデータは、プロテクトを含めた”記憶”です。セーブデータは、それぞれのゲームに応じてセーブするでしょう?」
「まあ、同じゲームじゃない限り出来ないしな」
「そう、だからゲームの本体を通してゲームをしているプレイヤーもセーブデータに応じて、対応の具合が広がる。つまり余裕が出来る、という具合ですか?もし、過去に似たようなゲームがあれば、これはどうすればいいとか、あそこをこうすればよいなどの、対応も増える。」

「要するに、行方、君は記憶を無くす前の君に戻りつつある、と言う事です。『記憶』の番人たる『プロテクト』をだす、というのはそういうことですよ」

行方はじっと、緑青を見て尋ねる。

「それは・・、悲しい事?」

「・・どうして、そう思うんです?」
逆に緑青も尋ね返した、目羽はそのやり取りに入ってははいけない気がして沈黙を守った。

「皆は・・僕の『記憶』がどんどん戻って『何か』を思い出せるのは僕は嬉しい。けど」
「けど?」
「僕は、又『彼ら』を忘れない自身がないんだ」

行方は、答えを待った。緑青の、記憶のプロテクトたる、緑青の答え。

「・・・・・自信を持て、というのも可笑しいですね。私は彼女の十月の記憶のプロテクトですから。」
「・・・」
「でも、貴方がこのまま忘れている記憶は、もっと悲しいですよ」

緑青の冷気が、刺さるように痛かった。行方がこちらを見ていた。

「どうした?」
「僕ね、”星峰神社”の”記憶”の欠片を見たんだ。」
「「?!」」
「呼応、っていうのかな。呼びかけられてるみたいだった。けど僕があんなに近くにいるのに、僕自身で戻せないのはそういうことなんじゃないかと思ってた。でも、緑青さんが言うみたいに、思い出されないままは・・・悲しい。目羽、君はお祭りの日の事を覚えてないんだろう?」

「・・・ああ」
ばつの悪い顔しかできなかった。今も這いずり回るようにその”記憶”の周りを呪文が回る。

「九重様は、僕と、目羽の願い事を聞いてた。けどまだそこに目羽は居なかった。それに、」
「それに?」
緑青が、尋ねる。

「僕が願い事を言った時、流れ”星”が通ったんだ。」

カチリ、時計が、狂い、呪文に這いずられていた記憶の奥が嘲う。

Re;The person who has begun to walk and a personwho have stopped and a guard of the ice .
DATE: 2009/11/03(火)   CATEGORY: 店主の宝物庫
聞こえたのは神様の願い事。
―聞こえないはずの願い事は君は届かず別の誰かに届くんだろう。

象牙色の長髪に着物を着込んだそれは、元在った像のある中々に高い石の上に腰掛けていた。たたらないだろう、何しろ此処に祭られていた像は自分なのだから。

はあ、と息を吐くと白い息がすうっと空気に晒された。嗚呼、生きてる、と九重は思った。

そう感じたのはこれで2度目だった。

自分が此処に祭られる理由となった、たとえ貧しくとも、獣と人との友情であったにせよ、確かにそこには縁のあった、そんな自分の逸話。


木々の色は、秋の色たる赤や茶色に染められ風はやんわりと寂しさを持って吹いてくる。

山はその当時たいそう蓄えが無く、山に住まう獣たちは別の山へ行くか人の地へと足を踏み入れ上手く行けば食べ物をとりにいける。失敗したら、なんて言ってはいられないのだ。

そして自分の母も、子供であった私の飯を取りに人の地へと足を踏み入れたが帰ってこなかった。つまり、そういう話なのだろう。

そんな中、私は山の中で人と出合った。その人は、雑草の中から顔を出した私を見て、驚きの一声をあげた後、小さなひょうたんに手をいれ私の前に置いた。魚だった。

「食え」
そう短く言うと、その人は道を歩く。本当に食べて良いのか、罠じゃないのかどうかを考えている間にその人はすたすたと道を行く。礼を、礼を言わねば。嗚呼、でも獣たる身でどうしたらよいのか。

迷った挙句、私は魚をくわえたままその人の後ろをついて歩いた。

てっ、てっ、てっ、とす、とす、とす、というそれぞれの足音。

「~っ!なんだそれじゃ足りないのか!?」
その人は耐えかねたように言う。違うのです。その人は又ひょうたんに手をいれ魚を私の前に置いた。

「最近ウチの村でも良く獣が下りてきて農作物を荒らしちまうもんだから、皆そりゃあカンカンなんだ。だから、いいか着いてきちゃ駄目だ。いいな」
怖い顔をしながら説明するその人の言葉を私は理解できませんでした。何しろ、獣だから。

私は又置かれた魚をくわえ、追いかけだした。ばっとその人は振り返り、はあああといってその場にへたり込む。

「お前さては育ち盛りか?ちっこいもんなあ・・、母ちゃんどうした、母ちゃん」
まくし立てられる言葉を一つも理解できない私がいめいめしい。小首を傾げた私にその人は困ったように笑った。

「わかんないか、まあ・・あたりまえっちゃ当たり前か。それにしても、綺麗な色してんなー。何色って言うんだろうな?」
母の色にとてもよく似ていた私の色は仲間内では大層珍しい色だった。

「・・・・んー、嗚呼、象牙、象牙だ。象牙に似ているな、お前の色は。」
にこりと笑うと、私が貰った魚を見てこう話す。

「それはな、さっき取ったばかりなんだか余りにも小さくてどうしようかと悩んでいたのだ。だから食べても良いし、悪さをしたわけでもないのだから遠慮なくお食べ。」
そう言って、すっと手を魚の前に置いて私の方へと寄せてくれた。

「母ちゃんが居ない、子狐かあ・・」
そう呟きながら魚を食べる私を見て、その人は言う。

「・・、有無決めた。もしよければ、お前ウチへおいで。そんな魚くらいはやれるし、もうじき冬だからな・・お前多分餌のとり方も知らないのだろう?」
食べていた魚がぽとりと落ちた。何故か、今の言葉だけは理解できたから。

「となると、名が要るなあ・・何が良いかな」

秋色に染まるのは、山々の宿命だと母から聞いた事があるような気がする。

「・・嗚呼、そうだ。ここのえ、お前の名は九重にしよう。秋はいろんな色がある季節だから。良いだろう、九重?」
そう尋ねる、その人に向かい私は『けん!』と答えた。

Re:start his story.
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