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DATE: 2010/06/27(日)   CATEGORY: 店主の宝物庫
寂しがりの三つ目の願い事。
―寂しがりは誰も寄り付かない山奥に住みました。

ウロコアンに案内されながら襖続きの廊下を練り歩き、左手に曲がると中庭のような所に出た。枯山水がつくられてあり、所々には木が植え込まれていて日当たりのとてもいい庭だった。

目線を庭から廊下へと戻すと、廊下の反対側から一人誰かが歩いてきていた。ウロコアンはその人物を見て、『まあ』と言ってこちらに向き直った。

「リガキ様、イナバ様、ミネガマ様、紹介いたしますわ。ウタゲ、」
ウタゲ、と呼ばれた主はこちらに気付き穏やかな表情をして『はい、叔母様』と言って此方へ来た。

「此方はウタゲ、二番目の兄上の息子です。」
「初めまして、ウタゲと言います。叔母様お客様ですか?」
「リガキ様ですよ、」
ウロコアンがそう言うとウタゲは罰が悪そうに頭を掻いた。

「呆れたわ・・、トビシマ兄様は貴方に何も言っていないのね。」
「もしかしたら、僕が聞いたのを忘れただけかもしれません。」
「いいえ、貴方は確かに兄上の気質は受継いでは居るけれど、そこまで酷くないもの。きっと兄上が言い忘れているのです。」
はは、と苦笑しながらウタゲは申し訳無さそうにウロコアンを見た。

「兄上の代わりに私がお話ししておきましょう。。此方の方はリガキ先生、大学で教鞭を取っていらっしゃる方です。そして此方の方々はリガキ先生が教えている大学の生徒さん方で男性の方がイナバ様、女性の方がミネガマ様です。」
「イナバです、お世話になります。ええと、ウタゲ君・・?」
「どうぞ、ウタゲと呼んでくださって構いません。僕もイナバさん、とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「イナバで良いよ?あ、ミネガマも。」
ミネガマは相変わらずどこかを見ている為にウタゲの事に気付いているかさえ怪しかったのでイナバはそう言った。

「いえ、お客差を呼び捨てにしては流石に父に怒られてしまいますから。」
リガキは目の前のこの二人がどこか似た気質を備えていると思った。

「そういえば、ウタゲ貴方何処に行っていたの?」
ウロコアンがウタゲに尋ねると、ウタゲは彼女を見ながら穏やかに微笑む。

「庭の鯉たちにえさをやりに行って参りました。カズアツも誘ったんですが、断られてしまいまして。」
失敗を誤魔化すように笑ったウタゲにウロコアンは溜息を漏らす。

「あの子は・・・、あ、皆様此方ですわ。」
そう言ってウロコアンは廊下に座りすす、と障子を引いた。

だだっ広い畳の部屋の中には大きな横長の漆塗りの机があった。その一番左側と向かい側の真ん中そして右側にそれぞれ人が腰を落ち着かせていた。
左側に座っていた眼鏡をかけた神経質そうな男の人が此方を確認して言う。

「ウロコアンか・・、客を迎えに行くついでに茶を入れてくるんじゃなかったのか。」
「あらカマカブト兄様、旅館ですら茶を入れさせるなと旦那に言われた女が無茶をやるなと先ほど言われたじゃありませんか。」
ウロコアンはそう言いながらリガキ達にお座りください、と促す。

「それにお茶はキミシカに頼みました。」
「キミシカなら一安心だな。」
真ん中に座っていた寝癖のような頭の男性は抑揚なくそう言った。

「久々に会った妹にこの言い様、キミシカに毒でも盛って貰おうかしら。」
ウロコアンが呆れたように言うと、カマカブト、と呼ばれた男性の隣りに座っていた肩までの髪の女性がカマカブトを見ながら言う。

「お父様もトビシマ叔父様もウロコアンおば様にそんな風に言わないで上げてください。」
女性はどこかおっとりと責めるように言った。

「ウタゲ兄さん、そっちの人たちは?」
右側に座っていたむすりとした表情をしている青年は困り顔のウタゲに尋ねた。

「ああ、こちらはリガキ先生。カズアツから見て右側にいらっしゃるのがイナバさん、左側にいらっしゃるのがミネガマさんだよ。」
「リガキ殿やその生徒さん方には悪いが少々待たれよ。」
「構いませんよ、イナバ君やミネガマ君たちも良いだろうか?」
「あ、はい。ミネガマも・・」
「私も構いません。」
いつの間にか彼女はどこも見ていなくなっていた。そんな彼女にイナバは少し小首をかしげた。

Re;Feeling lonely merely prayed for nobody approaching here.
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DATE: 2010/06/26(土)   CATEGORY: 店主の宝物庫
寂しがりの二つ目の願い事。
―寂しがりは家族には為れませんでした。

「・・・・」
ただ間抜け面を晒すという経験を人生で後何度すればいいのかとリガキは思った。

迎えの車から降りると、そこには漆喰の壁と迎えの車すら楽々と通れる広い門があった。敷地面積を考えたとしておそらく5・6世帯の家が入れるくらいの屋敷じゃないのだろうか。

隣りにいた青年はその大きな門に感嘆の溜息を漏らし、小柄な女性はうんざりだという表情をしていた。

「こんな大きな屋敷僕初めて見ました・・」
青年、イナバは本当に驚いたという具合に言う。

「強盗に入られても文句の言いようが無いですね。」
女性、ミネガマは渋い顔をしてそう言った。

「はは・・」
リガキが渇いた笑いをしていると、門の中から誰か人がやってきた。10代後半か20代前半くらいの青年だ。

「お出迎えが遅れて申し訳ございません。リガキ様、イナバ様、ミネガマ様で宜しかったでしょうか?」
痩身の青年は一度頭を下げてから柔和な笑みを浮かべてそう尋ねた。

「ええ、そうです。ええと、貴方は?」
「申し送れました。ミツヤ家で奉公しておりますキミシカ、と申します。皆様の世話人を勤めさせて頂きます。何か困った事がありましたら僕に何でもお申し付けください。」
キミシカはそう言って、さあどうぞ、と門の中へ手を向けた。

「あのキミシカさん、僕等まで来て本当によかったんでしょうか。」
イナバはキミシカに案内されながら尋ねた。

「勿論です。御当主たっての願い毎とはいえ、わざわざご足労頂きましたのに此方だけが条件をつけるというのも失礼極まりない話ですから。何よりリガキ先生にはお話し致しましたが、現当主ミツヨシ様にはお子様が三人居られまして―」
門から続いた石畳を歩いていると余り深そうではない川が流れていて、その上を小さな石橋が架かっていた。キミシカの話を聞きながらリガキはその川の先を目で追った。

するとそこには小さな池が作られていた。その端には人が立っていて何かをばら撒いていた。

「―そしてその方々には更に三人のお子様がいらっしゃられるのですが、そのお子様方はイナバ様とミネガマ様にご年齢が近しいと言う事も来ていただいた理由になります。」
ガラリ、と屋敷の玄関前をキミシカは開け中に入ると和服姿の女性が座って頭を下げた。その景色に旅館に訪れたかのように錯覚する。

「ようこそ、ミツヤへお越しくださいました。」
そう言って頭を上げると女性は微笑み立ち上がった。

「ミツヤミツヨシの3番目の子供で、長女のウロコアンと申します。キミシカ、お出迎えご苦労様でした。度々悪いのだけど、兄上たちが先ほどから茶を欲しがっているのだけど、私が淹れたのは嫌だと駄々をこねなさるから、入れてきてもらっても良いかしら?」
ウロコアンの言葉にキミシカは苦笑して頷いた。

「はい、分かりました。ではウロコアン様、リガキ様達を居間へご案内して頂いても宜しいでしょうか?」
「構いませんよ。お茶のお仕事を押し付けてるんですから。それにこう、暇だと体が鈍ってしょうがないわ。」
「ではお願い致します。それでは、皆様お茶と茶菓子を持って参りますので失礼致します。」
ぺこり、と頭を下げてキミシカは何処まで続いているのか分からない廊下を歩き出した。

「こんな叔母さんで申し訳ないのですけど、居間へご案内いたします。」
ウロコアンは微笑みながらそう言ってさあ、どうぞと静かに歩みだした。

「私や上の兄上たちも偶に里帰りすると迷子になるくらいですので、もし行き先がわからなくなりましたら屋敷の者に遠慮なくお尋ねくださいませ。」
「はい、そうさせていただきます。」
「宜しいお心がけですわ。」
リガキがそう話している一方でイナバはじいっと何かを見ながら歩いているミネガマに尋ねる。

「何してるの、ミネガマ?」
「ちょっとね、」
「?」

Re;It was to pray for the happiness of the family.
DATE: 2010/06/24(木)   CATEGORY: 店主の宝物庫
寂しがりの最初の願い事。
―寂しがりは一人ぼっちで山奥に住んでおりました。

秋の色が染まり行く枯葉は当たり一面にあって彼女はその色をなかなかに見飽きたと思う。

隣りにいる背の高い男はそれを楽しそうに見ているが、ひらひらと風に無残にもなぶられて落ちるさまは何だか桜より物悲しい気分にさえなる。

そして彼女はそんな季節があまり好きではなかった。それなのに追い討ちをかけるようにこの家の主に呼ばれた。

「どうぞ、」
ことり、と置かれた浅い湯飲みからはほこほこと湯気と良いにおいが出ている。

「有難うございます、リガキさん」
「いえいえ、こっちが呼んだんだからね。あ、それとこれも良かったら食べてくれないか。」
「・・南蛮菓子ですか。リガキ教授長崎まで?」
彼女は出されたカステラを見てそう言った。

「いや、知り合いの人が分けて・・というか食べきれないからどうぞ、とね。」
なかなか減らない物だよ、と苦笑しながらリガキは腰を座布団の上に下ろした。

「それで話っていうのは、君たちは”ミツヤ家”は知っているかな?」
リガキの口から出た言葉に彼女は少し驚いた。”ミツヤ”の名前は有名なのだ。

「あ、知ってます。以前から企業としては潰れず栄えずの中流でしたけど、現在の御当主が有能な方であっと言う間に成長を遂げて今じゃ政界や経済界には無くてはならない、ご意見番だとか。」
背の高い青年―イナバはお茶を飲みながらリガキにそう言うとリガキはそれに頷いた。

「そう。で、何故か僕はそのご老体から手紙を頂いてね。」
「リガキ教授がですか?」
彼女―ミネガマはどこか不審げにリガキをみた。まるで接点など考えようが無いからだ。

「・・それで、相談なんだけど君たちは今度の講義の休みの1週間に何か予定はあるかい?」

彼女と青年は顔を見合わせて、首を横に振る。それを見たリガキは二人に白い便箋を手渡した。

「中身を見ても構わないんですか?」
「構わないよ。多分口で言うより早いだろうから。」

彼女がそう言った男の顔を破願した顔で睨むのに要する時間は40秒程度だった。

「・・要するにミツヤ家御当主はリガキ教授をお招きされているんでしょう?それでどうして私とイナバも?」
彼女は男を睨みつけるようにしながら言った。

「理由で良いのだったら、一応間違いでは無い事を確認しておこうと思ってね、あちらへ電話したんだけども、あちらはもし同伴の方が一緒にいらしても一向に構わないと仰るし丁度学部の講義も短い休みに入るから丁度良いかと思って。」
「でも、僕等みたいな貧乏学生が行っても良いんでしょうか?」
正座をしているにも関わらず背の高いイナバは悩むように言う。

「聞いた話では君等ぐらいのお子さんたちもいるらしいし、つれてきて欲しいといわれたから大丈夫だと思う。」

完璧に退路をふさがれたと彼女は思った。

「・・一つお聞きしたんですけど、サカザカさんは誘われないんですか?」

もうやけだ。この際自分が行くのは一向に構わない。けれど、それなら男の旧来の友人であるサカザカは出来れば一緒に居て貰ったほうが心強いと思えた。

何しろ目の前の男は―、

「あいつは・・、無理かな。」
「何か用事が?」
イナバがリガキに問うと、男はそんなものかなといった。

「・・、分かりました。私は行きます。」
「僕も・・構いません。」
「良かった、ではこの日にここへ来てもらっても構わないかな?時間は10時頃。荷物はまあ・・4・5日分あれば足りるとは思うから。」
にこりと言う男はそう言ってカステラを摘んで食べた。

彼女も出された爪楊枝でカステラを指し口へ運ぶ。ふわふわとした生地とザラメの生地があっていて美味しかった。

―妄想癖の男なのだから。

Re;it's he was lonely things.
DATE: 2010/06/23(水)   CATEGORY: 店主の宝物庫
二人ぼっちの話。
―和尚様、和尚様、栗を拾いにあちらの山へ行って参ります!

―坊主よ、あちらには恐ろしき山姥が出るぞ、それでも良いのか。

男は早朝浅い霧に包まれた空気の充満する外へと出た。新聞を取るために門前にある郵便受けを見に行ったのだ。しかし、そこには新聞と白い便箋が一通入っていた。

男はその便箋に少し首をかしげながら、ぼんやり眼を擦って目を開き宛名を見た。

『―リガキ様』
宛名は正しく自分の名前で男は裏に書かれてある送り主の名前を確認した。

『―ミツヤミツヨシ』
ミツヤ、という送り主に男は心当たりがなく未だ敷いていた布団の上に座りながら便箋の封を切った。新聞は傍らに置いた。

『先ず最初に不躾極まる手紙を送りつけましたことをお詫び申しあげ候。
私は江戸の隠居のように様々な方との関わりを繋ぐ仕事をさせていただいております。
リガキ先生のご高名に置かれましては、屋敷奥に雲隠れしております私めの耳にも届いております。
そして、この度この様な手紙を送り申しあげましたのは私の家の”儀式”について、リガキ先生のお知恵をお借りしたいと思いまして候。
もしわたくしの不躾な申し出をお受けしていただけるのでしたらば下記に書いております日時にミツヤの屋敷においで下さいますようお願い申しあげます。

―ミツヤミツヨシ』

手紙の締めくくりには詳しい日時と住所が書かれてあった。そして一度手紙をおき、新聞へと目をやる。太文字のフォントで今しがた見た名前が書かれてあるのに男は気付いた。

『ミツヤ家の手助けにより大商談決まる!』

男のぼんやりとした頭がやっとさえてきてミツヤという名前が経済界、政界に名を轟かせている家だと気付いた。

「・・、蜜屋三好翁。嫌な予感しかしないなあ」

ぱたと布団に倒れた男―リガキはそう漏らしてただ静かに静かに、これからをあんじた。

―ひい、ふう、みい。さあ、何時、何処で、それを使うかは貴方次第。

RE:People who gets lonely easily.
DATE: 2010/06/19(土)   CATEGORY: 店主の宝物庫
ねずみの昏倒。
みいん、みいん。

蝉のけたたましい鳴き声はいつでも彼の耳のそのまた奥に残っている。

「今日もあちいなあ。」
「最高気温30度らしいからな。」
「その内人間が溶けても良いくらいの温度が発生してもおかしくないよな。」
「否定できないな・・」

先輩達の何気ない声が剣道場で静かに落ちる。

そして、僕はよろりと壁に当たった。

それからは、あまり覚えてない。

気がついたらベッドの上で、どこかで見たような天井を睨んでいた。

「・・・・何処だ此処。」
思わず出てしまった言葉とガラリ、と開けられたカーテンの向こうには先輩と先輩の知り合いたちが居た。

「おっ、起きたか子萌。」
「大丈夫か?頭フラフラしてないか?」
大虎先輩と絹酉先輩はずいずいとそう聞いてきた。二人とも剣道着のままだ。

「・・倒れましたか。僕。」
「倒れたって言うかさ、壁に当たってそのままずるずると床になだれ込んでたよ?」
ジューッ、と紙パックのジュースを飲んでいる女子生徒確か・・忍戌先輩だ。

「丁度外から剣道場が騒がしいのが聞こえたから野次馬しに行っちゃったんだよね」
「野次馬って・・、まあ野次馬だけど。」
亥波があははと言うとそれをたしなめようとして出来ない事に気付いた兎々繭先輩が肩を下げた。

「血の気が無かったから貧血って事に達したからさ、これ食べる?」
近先輩に渡されたのは緑色をした何かだった。

「これ・・・何ですか?」
「ほうれん草のプリン。学食で売られてある奴買い占めて来たんだよ。」
けろりと言い放つのは巳都先輩だ。

「買占め・・、」

「とりあえず子萌お前は今日保健室な。」
大虎先輩がそう言ったのに僕は顔をしかめた。試合がしたかったのだ。

「貧血も舐められないからな、先生にも話しは通しておいたし。帰るなら自宅に電話して迎えにきてもらったほうがいい。」
絹酉先輩は淡々と言った。

「そう言うこと。じゃあ、大虎、絹酉」
「おお、色々助けてくれてありがとな。」
「まあ、お互いに助け合いしてたしな・・」
「見事にね。」
「そうですよ」
うんうん、と頷きあう現生徒会長を脅して出来たと噂される城研同好会の面々が頷く中巳都先輩が此方に向き直る。

「一点集中してると、またそうなるよ。」
「・・・」
僕はその言葉に絶句してまた、耳の奥から蝉のけたたましい鳴き声が響いたきがした。

Re;Consciousness in the sense.
((↑感覚の中の意識。
DATE: 2010/06/17(木)   CATEGORY: 店主の宝物庫
猪の歩調。
片手を壁に、もう一方の手で口を覆う。

「うえっ、」
「今度は亥波か・・」
兎々繭先輩が雑誌を見ながら言う。

「何か変なの食べた?」
小さい牛乳瓶の様な器のプリンを食べながら忍戌先輩が尋ねる。

何かリバースしそう、と彼女は胃の腑をシャットアウトした。
「巳都は?」
「今日大虎と近で駅近くのラーメン食べに行くってさ。」
脂っこい匂いが想像できて泣きそうになってきた。

「保健室行くか?」
兎々繭先輩が壁に手を当てたままの私にそう尋ねてきた。

「行け、ます・・かね?」
「おぶって行ってやるよ。」
「兎々繭、私の時もそんな感じでやろうよ、ねえ。」
「お前のは食い意地の問題だろ。ほれ。」
おんぶの体制を取った兎々繭先輩の背に容赦無くのっかかると先輩はよっ、と短い掛け声をかけて立ち上がった。

「うし、行くか。忍戌、亥波が危なくないか見てて。」
「はいはい。」
私の鞄と兎々繭先輩の鞄を忍戌先輩は持って歩く。先輩の背中から私はこの気分を紛らわす為に何か話そうと思う。
私は鼻が利き過ぎる。
そのためか、微量な香水の匂いで吐き気を起こしそうになったり、焼けたゴムの匂いや生ゴミの匂いでさえ気分が一転してしまう。今日は体育の後の清涼剤の匂いのせいだった。
あんなにふりかけ回してたらエチケットがどうとかいう問題じゃない。人間いつもの匂いが一番なのに。
例えるなら夏の快晴の日に干された布団の匂いとか、太陽の匂いが充満していてひどく心地よい眠りに襲われる。

「何か亥波遠い目してるんだけど、走馬灯かな?」
「演技でもないから止めような。」
暇だから此処には居ない巳都部長の事をお話ししよう。
最初見たとき、兎々繭先輩とバンドとか組んでて人生ばら色な人なんだろうなって思ってた。でも先輩が好きなのはギターでもサッカーとかでもなく、城だった。

私は二重の衝撃を受けた。

「あれ、絹酉。」
「よお。兎々繭に忍戌・・に亥波か?背中の」
「気分悪いらしくて。」
「最近みんな体調悪いな。まあ、お大事にな亥波。」
「ありがと、ござ」
「いいよ。無理するな。じゃあ」
「ああ。」
すたすたと去る背中は真っ直ぐで凄く清廉としている。

「相変わらずいい人だよね、絹酉。旦那のいない間家庭を支える妻みたい。」
「それで行くと大虎が旦那か・・?」
「感じはね。」
ガラリ、と保健室のドアが開く音がして兎々繭先輩が先生に声をかける。

巳都部長の雄弁さは現生徒会長も舌を巻くほどだった。笑いながら迫る姿は相手を絞め殺す蛇だと生徒会長は偶に漏らすらしい。私も時たまそう思う。

けれど、不思議な程に此処が清かったのは間違いないしその根源は巳都部長のような気がしていた。

「・・臭い、」
先生の下から臭う香水に私はそう漏らした。

Re:A trip of the life without the end.
DATE: 2010/06/13(日)   CATEGORY: 店主の宝物庫
兎の繭。
―ねぇ、どうして貴方は息を吸って生きてるの。

「哲学的だね。」
細長の弁当箱の中身には赤、緑、黄色をバランス良く並べられたおかずが入っている。そして、声の主は何処か感心するように言いながらも弁当の中身からほうれん草のおひたしを取って食べている。

「で、なんて返したんだよ?」
先ほどの声の主と打って変わってこの声の主はもそりと食堂で売られている中華どんぶりを食べながら尋ねる。

「哺乳類だからじゃないかな、って。」
そして、俺はメロンパンとカフェオレを飲みながら少しだけ微妙に語る。

「5点だね。」
「2点じゃないか?」
「好き勝手言うよなあ・・」
「事実じゃないか。でもさすがだね、兎々繭。なかなか哺乳類は出てこないよ。」
「いや、その日授業で生物があったからさ・・」
「-8点じゃないか?」
「大虎の意見に賛成。」
箸を片手に持って諸手を上げる巳都に俺は肩を竦めて言う。

「ひでーの」
「何が?」
振り返ると学生服の下にパーカーを着こんだ同級生が袋を持って立っていた。

「兎々繭が付き合ってた女の子に別れ際に『何で息なんかしてるの』って言われたんだって。」
「で、哺乳類だからじゃねーの?って返したんだとさ。」
巳都が炊き込みご飯を食べながら言う一方で大虎が今度は焼きそばパンを食いながらいう。それを聞いた近はサンドイッチの包装を剥がしなら笑った。

「どっちもどっちじゃないか。そんな事別れ際に言われるような事したんだろ?」

くら、り、と目の前が少し揺らめいた。

「近ってシビアだよな。」
「そうかなあ?けどさ、兎々繭は期待を裏切りやすいんだよ。」
「見た目は軽音部かバスケ部で期待のエースです!みたいな感じなのに何故か城研だしな。」
「中身は哺乳類とかボケかますほどだけどね。」
ここの3コンボはきつい、と思っているとまたクラクラと目の前が揺れる。

「ああ、でももしかしたら」
近が何かに気付いたように顔をあげて話す。

「息を吸っていなかったらその子とも逢えなかったって言えばよかったのかもね。」
全員が近を見ていたけど、近は何処吹く風でおもむろに携帯を取り出して空を撮る。

近や巳都、大虎に言われていたように俺は中身と外見のギャップによく期待を裏切られる、と言われる。実際城研に入ったのも何処の部活に入ろうか悩んでいた時に巳都に誘われた訳であって。
事実問題、バスケや野球といったスポーツは持病としてあげて良いのか判らないが、時折起こる酷い眩暈のせいで無理だと思っていた。しかもこの眩暈は何故か俺が困った時に起こる。

先の言葉を言った彼女がすたすたと歩き去る中俺はこの眩暈のせいで一歩も動けなかった。

だけど、考える時間はたくさんあった。だから、多分そうだと思うんだ。彼女がそんな言葉を言ったのも、きっと。

「えぇー不可ー」
「何が?」
「彼方さんが青空の写真探してるみたいだから送ってみたんだけど、駄目だった。」
「彼方さんって?」
興味本位で聞いてみると近の二人の友人たちは拙そうな表情をする。

「あー・・」
「気にしたら負けだよ、兎々繭。」
「ふーん?」

近が言っていた言葉を彼女は待っていたのだろう。

『君、大丈夫?具合悪いの?』
眩暈で困っていた時、彼女が声をかけてくれたように。

くらり、
Re:Surely the contents are black.
DATE: 2010/06/08(火)   CATEGORY: 店主の宝物庫
忍ぶ犬の姿は正しく。
―惨めな物で。

「うあああ・・」
「大丈夫かー、忍戌?」
唸っていると席の前から同じクラス、付け加えていうなら同じ部活の顔なじみの声が響く。

「お腹が死ぬ、」
「いや、もう死んでんだろ」
「地味な突っ込みなんか要らないから・・、」
彼女は唸りながらこの腹痛の原因をさかのぼる。

朝食の味噌汁が夏の暑さに負けた?いや、昨日冷蔵庫をあけたらあったチーズケーキが賞味期限を切れていたなんて可能性も多いにある。どちらにしろ彼女は食べ物によって腹痛を引き起こしているような気がしていた。

彼女は元々腸が弱い。それとは反対にたくさん物は食べるのだけど。気分によって腹痛を引き起こしたりもした。

結局、彼女は現時点で唸る事しか出来なかった。

「苺ポッキー食べたいのに・・神様の非常者・・」
「安心しろよ。代わりに貰ってやる。」
ひょいっと顔なじみがお菓子を奪おうとするのを彼女は阻止した。

「駄目、私の」
「食い気に対する意思が強すぎねえ?」
「お腹痛い・・、」
「諦めとけって。まじで。」
兎々繭とか全体的に可愛い苗字をした顔なじみはあきれたように言う。

「あれ、忍戌具合でも悪いの?」
私の席は教室の廊下側の窓に近しい席だったのでひょこっとそんな声が窓から聞こえた。顔を見れば巳都だった。

「腹が痛いんだってさ。」
兎々繭が私に変わって答える。

「変なのでも食べた?」
「わかんない・・」
そういや次の時間なんだったけかな。

「大虎ー、さっき買ったヨーグルト忍戌にあげてやってよ。」
「良いけど、何でまた?」
「ヨーグルトは腹痛にいいんだよ。」
「ふーん、まあ、ほら。」
「ありが、と、大虎。」
渡された林檎入りのヨーグルトの蓋をぺりぺりと剥がしてもぐりと食べる。

「うまー・・」
歓喜の声と言わんばかりに私はため息をつきながら言う。

「長引くようだったら、保健室に行くのが手だけど。まあ、そこは自分でね。」
「はーい」
「つうかさ、忍戌お前大虎にヨーグルト貰ったんだし、これやれよ」
「・・・、鬼じゃないの。」
「何故。」
目の前でけらけらと笑う巳都ときょとりとした大虎。

「んー、まあお世話になったしね。はい。」
「良いのか?」
「うん。ヨーグルト貰ったしね。」
「じゃあ貰っとく。サンキュ。」
「どう致しまして。」

そう言って視界の中に時間割が入り込んできた。『英語』・・・・・、あ、予習してない。・・・、腹痛の原因が呆気ないことを私は、絶対に口外しなかった。

Re;Because even a dog has the pride.
DATE: 2010/06/07(月)   CATEGORY: 店主の宝物庫
絹衣の酉。
―そう、これはきっと死ぬまで止まない、音なのだ。

きぃ、ぃ、ぃ、ん

「あ゛ー・・、くそ」
「絹酉先輩どうしたんですか?」
片手でその音が聞こえる耳を抑えながらしかめっ面で立っていると後輩の子萌がやってきた。

剣道場は良くも悪くもその時期それぞれの短所ばかりしかない。夏には蒸し暑く、冬には板の間がまるで氷の上を素足で歩かされているかのように冷たく感じる。

「あー・・、何かキーンて」
「耳鳴りですか?」
後輩は首をかしげながらそう尋ねた。

「そう。俺結構続くんだよねこれ。」
「酷いようだったら、審判代わりますよ?」
「・・いや、もうちょい様子見てみるから良いよ。悪いな。」
「いえ。本当に無理だったら遠慮なく言ってください。」
「有難う。」
後輩の優しさは何時だって染み入るのだ。

パン、トッ、と竹刀と竹刀が打ち乱れる音と互いが距離をとるための音がする中きいんと頭の中へと響くその音。

「そういや・・あの時もだったか?」

それは絹酉が2年生の頃。彼は部活に行こうとして剣道場前の扉を開けようとすると、きいんと耳鳴りが響いた。そしてそれと同時に聞こえてくる声。

『絹酉ってさー』
『真面目でとっつきにくいよなあ。なんで、そこまで細かいんだよ、って感じ。』
聞こえてきたのは同学年の剣道部員たちの、悪口だった。しかも間の悪い事に自分の。

『顧問にも媚売ってるよなあ。』
『な、最悪じゃね?』

きいん、去るべきなのか。それとも、何か一言言うべきなんだろうか。立ち往生していると、スパン!と空気を何かが切る音がした。扉の隙間から覗くと、悪口を言っていた3人の目の前に竹刀を彼らの前に突き出した奴がいた。

『そういうお前等の方が最悪だ。』
今まで試合をしていたためか、面は被っていたままだったが喋りづらかったのかとった。

『お、大虎・・』
当時の剣道部で奴に勝てる奴は部長、副部長、顧問に、そして何故か自分。

『でもお前もそう思うだろ?』
『いい子ちゃんぶんなって大虎!』
ポンと軽く大虎の肩をたたいた部員を大虎は恐ろしい目で睨んだ。

『絹酉は毎日お前等より早く来て道場を片付けてるし、誰かが具合悪そうだったら真っ先に声かけて顧問に報告してる。そんな誰かの事を考えてる奴が最悪ならお前等はその上を行く最悪だ!』
ぱんっ、竹刀が空気を切って部員たちの目の前に現れる。部員たちは顔を真っ青にして大虎を見る。

『二度とそんなことを言うな。それから絹酉に謝っとけ。』
耳の遠くで鳴っていたあの音はいつの間にか消えていた。

「痛い・・なにか、我ながら痛いぞ・・!」
「耳鳴りが?」
その声に横を見ると剣道部主将にして、最強ののろしを掲げてもおかしくない大虎がいた。あの後、部員たちは泣きそうな顔で俺を見つけ謝った。事情を知らなければ何が何なのか分からないのに。気付けよ。

俺は彼らの謝罪を受け取ると、何時のものように過した。だが、あの時俺はきっと大虎がそう言ってくれなければそのまま部活を止めていたのではないかと思う。嫌われているから、と。

「違う。試合は?」
「終わった。俺の勝ち」
「だよな、・・ていうか俺お前に耳鳴りの事話したか?」
「子萌がさ、絹酉が耳鳴りだって言ってたの聞いたのさ。あの低周波まだしてるの?」
「・・治ってる、」
「良かったじゃん。」
けらりと笑う大虎は試合表を見ながらウンウン頷いている。俺は試合表を隣りにいた後輩に渡して自分の竹刀を掴む。

「試合やるか?」
「おお、珍しいな。やるやる。」
「子萌、審判頼む。」
「あ、はい。」

耳鳴りを掻き消すのは、空を切る虎の爪だ。

Re:The lingering sound of the ringing in the ears.
DATE: 2010/06/04(金)   CATEGORY: 店主の宝物庫
アメフラシ。
―しとしと、ぴっちゃん、しと、ぴっちゃん。

学校の紫陽花の花は此処最近雨ばかり降っているせいか、潤いを通り越して枯れかけている気がする。呼兼は教室からそんな様子を見ていた。

「呼兼何してんだー?」
クラスメイトが掃除時間中だったために箒をもってやってくる。

「今日も雨だなあって思って。」
「ユーウツだよなあ、こうじめじめしてたらさ。雨降ってると外でサッカーも野球も出来なくなるからやんなっちまうぜ。」
むすり、とした顔でクラスメイトは言う。

「僕は別にいいけど。」
「だって呼兼は駄菓子屋で留守番だからだろ?」
「そうだけど、そういうものかなあ。」
「そういうもんだよ。」

―じと、じと、ぴっちゃん、

学校からの帰り道でそう言えば今日お姉さんは来るんだろうかと思った。高校という奴は入らない頭にねじりこむように情報を入れ込んでくる、そのためお腹が減るというのがお姉さんの言い分だった。

―じと、じと、ぴっちゃん、じと、ぺち、

青い傘から外を見ると金色のチェーンのついた黒い帽子を被ったお兄さんが雨を一身に受けていた。呼兼はその光景に唖然として不審者という奴なんだろうかと少し考え込んだ。

すると傘の外と視線が見事にかち合った。

「・・・、傘」
「えっ?」
「俺の傘を見なかったか・・?」
「えと、どんな傘なんですか。」
「黄緑色の傘で模様はないんだ。」
「・・見た事無いです。」
「そうか・・弱った、いい加減にしないと拙い。」
はあ、と雨水だらけになっているアスファルトを見てお兄さんは溜息をついた。

「あのお兄さん。」
「・・ああ、良いんだ。俺の事は気にしないでくれ。」
「いえ、その、傘だったら何でもいいんですか。」
「多少の好みはあるけど、基本的には何でもいいよ。」
「だったら、これどうぞ。」
僕がそう言うとお兄さんは予想外だったらしく口をあんぐりとあけた。

「良いのか?」
「困ってる人は出来るだけ助けてあげなさいっていわれているので。」
開いたままの傘をお兄さんに渡すと当たり前だけど傘は小さかった。

「・・うん、良い傘だ。」
「小さくないですか?」
「いや、平気だ。有難う。」
「いえ、」
お互いにお辞儀をし合って呼兼が顔をあげるとお兄さんの姿は消えていた。

ポタ、ポタ、ぴちゃん、

厚い雲の陰から太陽が見え始めていた。

「あれ?呼兼君?」
「あ、お姉さん。」
「わ、ずぶ濡れじゃない。どうしたの、傘持ってこなかったの?」
呼兼に尋ねながら彼の顔見知りの少女は鞄からタオルを出して渡す。

「あげました。」
「あげましたって・・貸したじゃなくて?」
「はい。」
「・・呼兼君のステータスどんどん上がってるねえ。」
パチン、とお姉さんは傘を閉じてそう言った。すると、

「おやま、嬢ちゃん、丁度良かった。・・ん?坊、何でずぶ濡れになってるん?」
芝色のカンカン帽子に寅さんみたいな財布をぶら下げた狐目の男の人が傘を2本もってやってくる。

「やっぱり、知り合いだったんだ。」
「嬢ちゃんも坊を知ってたんやなあ。坊、傘は?」
「傘をなくしたお兄さんに上げました。」
「・・傘、黄緑色の?」
「何で知ってるんですか?」
「そうなの?」
うーんと男の人は何か考え込むように細い目を更に細くさせた。

「じゃあ、坊の傘はもってかれたんやろ?」
「はい。」
「じゃ、坊にはこの傘代わりにあげましょ。」
「良いんですか?」
「それで釣り合いは取れるから良いでしょ。」
「ねえ、何で添柿は傘が黄緑色って知ってたの?」
お姉さんが狐目の男に不審げな眼差しを送る。

「授業料払えるんだったら教えたげてもええけども。」
「御免、無理。」
「だったら諦めときなさいよ。はい、坊」

渡された傘はパステルカラーのボーダーの傘だった。

「・・・・可愛すぎない?」
「渡しておいた手前あれやけど・・可愛すぎたやも」

カチッ、

「・・いい傘ですね。」

しと、ぴっちゃん。

Re:umbrela story
DATE: 2010/06/03(木)   CATEGORY: 店主の宝物庫
因幡の兎の話。
―騙して騙して救われたから、君に良い事起こる様願い願い生きるのです。

「勘が当たったかな。」
静かな声が一つ響く。声の持ち主である男は座布団に座り新聞紙を広げそう言う。

見出しには詐欺事件解決とかかれてあった。

犯人は自首、その理由はいまだ不明ながらも詐欺で巻き上げられたお金の半分が被害者へと返還された。

「身代わりは失敗したようだし、彼女の”心”も、彼の”道徳心”も、」

パタン、と新聞紙をたたんで嬉しそうに男は言う。

「それにイナバ君の”偽善心”も戻った。上々かな。」


道路工事をされつつある路を一組の男女が歩く。背の高い青年と小柄な女性。

彼女は驚いた表情をしていた。彼の顔を見て、彼はといえば何処か困った表情をしていた。

「それじゃあ・・、貴方最初から分かってたの?ワニイが”詐欺事件”に関わってるって。」

「最初から分かってた、っていうより・・何となく何だけどね。何だか、思いつめてるような感じがしてたから、何かあったんだろうなあって思ってはいたんだ。」
「じゃあ、どうやって”詐欺事件”に行き着いたの?」

彼女の言葉に彼は更に困ったという顔で笑う。

「ワニイは僕をお人好しって言ってただろう?」
「ええ、序でに言うなら私もね。」
「言ってたね。ワニイは・・なんでそんなことを言い始めたんだろうって僕は思った。いつもだったら気にしない。誰かが優しかろうと、怖かろうと、関係なかったらそれこそ見向きもしないことだから。」
「・・」
「じゃあ、何故?お人好しってことに反応するんだろう―・・・彼等をキーワードとした何かをワニイはしたのか、ってそう考えてた。そしたら最近良く起こってる”詐欺”が思いついて・・まあ、ちょっと穴ぼこだらけだったんだけど調べてみた。そしたら、」

「ワニイと椚更が出てきた・・・って事。」
「うん。まあ・・調べてるうちに自分も引っ掛かっちゃったんだけどね。」
「・・・・引っ掛かった?」
「あはは、嘘ついてた。僕ひっかかったんだよね。」
困ったなあと笑うイナバを彼女はひたすら信じれないと見ていた。

「信じ尽くして裏切られてそれでも又信じるなんて馬鹿じゃないの。」
「・・かもしれない。けど、信じるって素敵だよ。」

そう言うイナバの目は楽しそうで、それが嘘ではない事を語っていた。

「そんなの仮物語(フィクション)よ。」
「それで良いんだよ。僕は少しの間幸せになれるから。」
「・・・とんだ偽善者ね。」
「うん。だけどミネガマ―君もだろ?」
「・・・・分かってたの。」
「リガキさんみたいだから、分かったんだ。」

リガキ、という名前に彼女は酷く顔を顰め恨めしいという表情をした。そして彼が情報を知りえるまでの過程は多少は違うだろうが、自分と同じ出所を元として調べていた事が知れた。

「あの人と同列にだけはしないで。」
「・・・嫌いなの?」
「本能的な物で嫌いなの。何もいわないなんてそんなの自分が辛いだけよ。」
「かもしれない。けど―あの人も何かを”犠牲”にしたんじゃないかなあ。」

犠牲―彼女が心を捨てたように、彼が偽善心を捨てたように、ワニイが誰かを騙すことで道徳心を捨てたように、

「・・・・あの人の犠牲は計り知れないわ。」

―ねえ、すくわれた?

Re;It was admirable God to have helped that child who cried.
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